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セミナーアーカイブ Vol.1

知れば知るほど現場に強くなる!
あなたをイキイキさせるスキンケアセミナー

まだまだ知らない!
効果を引きだすスキンケアのEBM
~エビデンスを活かしたスキンケアの取り入れ方~

講師 江角 真梨子
(Vet Derm Tokyo / 日本獣医皮膚科学会認定医、日本コスメティック協会認定指導員)

スキンケア療法が注目されている現在、AFLOAT DOG VET シリーズのお問い合わせが増えております。
そこで今回ペティエンスでは、今から使い始める人にも、すでに使っている人にも役立つスキンケア製品の説明をはじめ、成分や効果的な活用方法について、セミナーを開催いたしました。

講師には、昨年のスキンケアセミナーでも「わかりやすい」「飼い主さんとの会話でも役立つ」と好評の江角真梨子先生をお招きしました。
日本獣医皮膚科学会認定医であり、日本コスメティック協会の数少ない認定指導員の資格も取得された江角先生には、保湿の重要性などスキンケアに関するポイントを“なぜ・どうして”の観点から“EBM(Evidence-based medicine)を用いて解説いただいています。是非ご覧ください。

スキンケアにおけるEBM

皮膚に関する多くの情報から的確なものをどのように取捨選択していくかは重要なことです。 そこで、医療や獣医療の現場では、EBM(Evidence-based medicine)すなわち「科学的根拠(エビデンス)に基づく医療」という考え方が積極的に用いられています。 EBMとは、様々な客観的なデータに基づく、実験によって検証された結果を根拠とした治療や施術です。 ヒトのスキンケアに関するエビデンスの例では、アトピー性皮膚炎(AD)のリスクのある新生児を対象にした論文で、全身に保湿剤を塗布した群は乾燥した部位のみに保湿剤を塗布した患者群と比較して、ADの発症がおよそ32%抑制されたと報告されています1)。 スキンケアは皮膚病の予防になることを示したこの結果は非常にセンセーショナルなもので、これを機に獣医療でもスキンケアがさらに注目され始めました。

保湿剤の浸透経路を考える


図1 表皮の構造

潤いのある健康的な皮膚は、表皮の角質層の角質細胞と細胞間隙の保湿成分(セラミド、コレステロール、脂肪酸)のバランスが保たれています。 一方、ADや犬アトピー性皮膚炎(CAD)ではセラミドが減少していることが分かっているため、最近は多くの保湿剤にセラミドが含有されています。 ところが、表皮の最上層は皮脂膜に覆われているため(図1)、皮脂が多い場合は保湿剤を塗布しても浸透しないということが起こり得るのです。このような場合は、余分な汗や皮脂をクレンジングしたり、皮脂に馴染み易いクリームタイプの保湿剤を使用します。逆に、皮脂が少ない場合は、保湿剤は浸透しやすいですが、同時に蒸散もしやすいため、油性である軟膏タイプの保湿剤を使用します。

また、保湿剤の選択では、基材のタイプが重要です(表1)。軟膏タイプはほとんど角質層に入り込みませんが、残留性が高いので、来院頻度の低い犬に使用するとよいでしょう。ローションタイプは浸透性が高く角質層に入り込みやすいですが、蒸散もしやすいため、軟膏やクリームでパックすると一層効果的です。 ただし、クリームタイプは界面活性剤が含まれるため、傷のある部位への塗布は控えます。 また、ローションタイプにはアルコールを含むものがあり、その揮発性により水分が蒸散する可能性があるため注意します。 有毛部は被毛自体に保湿効果があるため、ローションタイプを使用して大丈夫だと考えられます。

このように、皮膚に水分を与えるためには角質層への浸透経路(図2)を理解する必要があり、それぞれの皮膚の状態に合わせて保湿剤を使い分けるとより効果が得られます。

皮膚を乾燥させる原因

犬の角質細胞の入れ替わる周期(ターンオーバー)はおよそ21日間といわれていますが、栄養要求量の高い子犬期や栄養不良の老犬などでは、タンパク質の不足によるターンオーバーの短縮がみられることがあります。 ターンオーバーの短縮は、鱗屑形成時に角質細胞から放出される天然保湿因子(NMF)、アミノ酸、尿素の減少を招くため、さらなる乾燥を促進します。 ターンオーバーを正常化するには毎日のスキンケアとフードの見直しが必要です。

また、シャンプー後はどんなシャンプー剤を用いても皮膚の水分蒸散量が増加することが分かっています。
さらに、洗浄時の摩擦、高温の湯、長時間の入浴、硫黄成分、ナイロンなどの刺激を与えるタオル、保湿されていない状態でのドライングは乾燥を助長する因子とされているため、シャンプー後は必ず保湿をしましょう。

保湿に有効な成分

保湿剤の有効成分には表2のようなものがあります。ヒューメクタントに分類される成分は、セラミドのようなエモリエントと比較して保湿力は弱いですが、角質を軟らかくする作用があります。 また、ヒアルロン酸ナトリウムのような水溶性高分子は、皮膚の中に浸透しにくいのですが、一方で、皮膚表面に残留しやすい性質があります。
つまり、保湿剤の選択ではこれらの成分をバランスよく含有するものがよいと考えられます。

また、スキンケアに重要な栄養素として、角質や被毛の形成に必要なタンパク質、保湿作用のある必須脂肪酸、抗酸化作用のあるビタミンEが挙げられます。 ポメラニアンやヨークシャー・テリアのような長毛の犬種はタンパク質を多く必要とするため、減量を目的として低タンパク質のフードを給与していると皮膚の状態が悪くなることがあります。そのため、タンパク質量の適正化することによって、皮膚や被毛の状態の改善がみられることがあります。 ω-3/6、ドコサヘキサエン酸(DHA)などの必須脂肪酸やビタミンEは、サプリメントで補給することができるので、必要に応じて飼い主さんへお勧めします。


表2 主な保湿剤成分

表3 界面活性剤の特徴

薬用シャンプーとスキンケア

では、実際にどのようなシャンプー剤がスキンケアに適しているのでしょうか。 CADに関するガイドライン2)では、刺激性が少なく、保湿成分が配合されたシャンプー剤の使用が推奨されていますが、具体的なシャンプー剤が明記されてはいません。 一方で、CADに多く併発するマラセチア性皮膚炎に対しては、クロルヘキシジンおよびミコナゾールのシャンプーが有効であるという報告があることから3)、CADの症例に対してはどのような薬用シャンプーが適切であるのか議論がなされています。

ヒトにおける理想的なシャンプー剤の条件は、アミノ酸やセラミドといった保湿成分を多く含み、皮膚の汚れを洗浄し、界面活性剤は低刺激性のものとされています4)。低刺激性の界面活性剤には、ココイルやラウロイルメチルアラニンといったアミノ酸系のものがありますが、洗浄力が弱いというデメリットがあります(表3)。
ですから、マラセチア性皮膚炎のように皮脂が多く、汚れがひどい皮膚に対しては、クレンジングオイルによる下洗いを組み合わせます。また、動物用のシャンプー剤ではすべての成分を表記されていなかったり、アミノ酸系が含 まれていても刺激性の強い界面活性剤も多く含んでいる場合があるため、十分な確認が必要です。

トリミングサロンでは、飼い主さんがシャンプー剤を持ち込むことも多いため、その時の皮膚の状態に最適なシャンプー剤を使用することが難しい場合があります。そのような場合は、しっかりとシャンプー剤を泡立てて、決してこすらず、必ず保湿剤を使用するようにします。そして大切なことは、翌日からも保湿を継続していただくことです。


スキンケアは、毎日の積み重ねによって成立し、獣医師だけではなく、すべての動物病院スタッフと飼い主さんの協力が必要な治療の一つといえます。

セミナーアーカイブ Vol.1
1) Horimukai K, et al. J Allergy Clin Immunol. 2014
2) Olivry T, et al. BMC Vet Res. 11: 210. 2015
3) Murayama N, et al. Jpn J Vet Dermatol. 16(3): 125-132. 2010
4) 河合道雄. MB Derma. 40: 1-9. 2000
※リピジュア®は、日油株式会社の登録商標です。